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奇想天才・後編

2009.08.14 *Fri
奇想天才、後半、に、わけました。
高宮は目立ちたくなかった。
目立ちたくないということは、否が応でも自分が目立っていることを知っているから。
だが周囲に合わせて自分を変えたくない。負けたり妥協したりしたくないという思いも強かったので悪化した。
多分、負けたり、妥協して誰かに従うそぶりを見せれば変わったのかもしれないのは想像できた。容姿がいくら目立つからってそれで毎回絡まれるわけがない。髪の色を染めればよかっただろうし、自分の喧嘩の強さは自覚していたので人を従わせることもできたかもしれない。でも、高宮は自分が認めてもいない相手に負けを認めたくなかったし、負かせたからといって相手の意思を踏みにじる真似もしたくなかった。
どんな見た目でも、俺は俺。そして他人も、意思がある人間。
そうやって妙に心が落ち着くころには、周りには偏見の目がたくさんあることに気がついた。高宮は目立つ存在で、そして怖がられる存在になってしまっていた。高宮個人は誰かに悪さをするような人間でもないし、喧嘩を警察にとめられたことはあるが自発的に喧嘩をしたこともない。善良な一般市民だ。だがそれを認めてくれるのはなぜか警察官と母親だけだった。外人交じりの父親の居ない子供は周囲が乱暴者と差別するにはいい材料だった。
それを知るとかかわりを持つことにも最初からさして熱意があったわけじゃないが、自発的に起こそうとする気がまったく失せた。周囲がが持つ印象を変える努力をすることもしない。高宮は自分と周囲の人間とが明らかに違うことを知っていた。
それは容姿だけじゃない、能力、さらに深くほりさげたらそれは感覚だった。
そう思うと生きる気力までなえてしまいそうだが、高宮にはほしいものがあった。

話は変わり、高宮の家は母子家庭だが母親は料理という料理が全く出来ない。掃除も満足に出来ない。更に言うなら洗濯もあまりきれいに出来ない。
壊滅的に駄目な家事能力。そんな彼女のおかげか生まれつき病弱なせいか、高宮は物心ついたときの自分の家といえるものは病院だった。年を負うごとに、入院する期間は短くなり、ある事件を得てからは入院することすらなくなったが。
むしろ入院していたから育ったのかもしれない。
高宮が生まれても、育っても、母親の家事能力はミクロ単位でしか育っていないにちがいない。それゆえに高宮のほうが群を抜いてあっという間に育ってしまった…家事能力が。
多分、高宮は何かを知ることと試すことがとても好きなのだと思う。自宅にあったたった一冊の料理の本を熟読すると、調味料の合わせ方を学んで、さらに他の料理を知りたくて図書館に出向いた。それをはじめると他のことも気になり掃除の方法や洗剤の仕組みが気になり洗剤の化学変化と作り方を知りたくなった。
だが、知ることはできればすぐに使うことができるかというと、違った。
料理にしろ、洗剤にしろ物を作ろうとすれば材料が必要だった。その基本的な材料だけでなく道具もいる。使える、と思うものを選びたくても、試す場がないと判断できない。いろんなことを試したいと思えばそれに見合ったお金が必要だった。だが家事にまったくもって疎い母親に家事のためとはいえお金を出させることには抵抗があった。もちろん、高宮個人が持っているお金などあるはずもない。
いろんなことを、それこそ些細なことでもいいから、物を試す場所がほしかった。
そう思うと、学校という場所にはいろんなものがそろっていることに気がついた。
道具はもちろん材料まである。いい学校に入れば、できることはもっと広がる。
そう思ってこの学校に入った。夜間でありえない生徒活動の変わりに授業、教材費免除。常識をずるずる斜め上いっている気がするが、それでも高宮のやりたいことができるので満足している。

「あ、先生」
教室に数学の教師が入ったのを見かけて高宮が声をかける。夜間という特殊クラスを受けているのは高宮一人だけだった。中年過ぎの男性教師はだるそうにこたえる。
「何だ高宮」
「そろそろ数Ⅱ・Bしません?」
高宮がぺらい教科書をふると、教師も肩を落とした。そのついでに小テストと思しき紙を渡してくるが、その内容は高宮にとっては簡単すぎた。二人きりの授業のおかげで、授業はとても進んでいた。
「一年はそれをみっちりする予定なんだよ、早くそれ解けよこのやろう。いちいち問題作るのも面倒なんだよ」
面倒と教師はだるそうな表情を隠しもせずに顔に出し、高宮もまただるいという表情を隠さない。
「先日の小テスト満点だったじゃないですか。いい加減この手のテストに飽きたんで新しい科目がほしいのですが」
一応解きはじめた高宮に教師は重いため息を吐く。
「同学年の昼の生徒が赤点とってひぃひぃ言っているってのに、お前ときたらこれだもんなぁ。普通夜のほうはレベル落とすはずなのに、レベルを逆に上げなならんとは…というか高宮、お前学期末のテストは満点じゃなかったな」
思い出すようにして教師が言う。満点じゃない高宮をからかうわけではなく、どちらかというとその表情はかなりあきれている。
この学校は進学校だ。
この学校ではテストを作るものと採点するものは別に居る。そして教鞭をとるものとテストを作るのも別人。範囲は確かに指定されるが、どの問題を丸暗記すればいいという問題はは決して出てこない、ちゃんと基礎をおさえて応用ができることをためされているのだ。
そのため指定された範囲をしっかり勉強させないといけない教師もそれをちゃんと理解しないといけない生徒もハードである。
「あーあれ、満点だと目立ちそうなので空白あけときました」
十分と少しで解いた高宮はそれを教師に渡しつつ言う。期末のテストは昼も夜も同じ内容だった。同じ内容だったので満点を取るわけには行かなかった。目立ちたくない。その基本理念は今も変わらない。
「だとおもった。はぁ」
採点し終わり、満点のテストを返しながらやはり教師はため息をつく。本来ならこの問題を一時間かけて解いて、次の時間に解説する予定だったのに。あっという間に解いて挙句満点をとられてしまうと解説する必要もないことはお互いわかっていた。ミスくらい、してくれよとぼやく教師に高宮は苦笑するしかない。
時計を見れば時間はまだ半時以上残っていた。やることがなくなって。お互い暇だと言い続けた。
「来週から、教科書かえるわ」
授業の最後で教師が敗北を認めた。高宮はにやりと思わず笑う。

ほしくてしょうがなかったのは、知ることができる環境。教えてくれる人。本当、勉強できるってのは楽しくてしょうがない。

勉強のほうはとても順調なので、あの奇妙な生き物の捕獲を最優先しよう。気分よく高宮はうきうきと考えをめぐらせた。
あの奇妙な生き物に、悪戯を仕掛けられたことは数多くあるが、高宮から仕掛けるのは初めてだ。どうしようかと思うと、ふと夜にも屋上に居ると視線を感じていた気がすることを思い出した。高宮は思わずひとりでに顔が引きつった。
どれだけ観察されているんだ、俺。あいつはやっぱり変態だ。
しかしそれを利用することもできるかもしれない。見るにしても下から見上げると死角というものがどうしても生まれる。いつもいるはずのものが急に居なくなったら気になって探しにくるかもしれない。
高宮は授業を終えて屋上まで上ると、普段は屋上の中央あたりまで進むのをやめて屋上のドアの影に身を潜めた。秋も半ばになり、軽い上着がほしい季節になった。
高宮は持参した上着のフードをかぶる。今日は月が出ていて、月の光を受けると、金髪の髪は目立つかもしれないので用心のためだ。
ぼんやり空を見上げていると、不意に、気配を感じた。音という音がないのに足音がわかる。ああ、俺、成長したなぁ。
屋上のドアが開く。見覚えのある女子生徒が、普段高宮が居る場所まで飛び出してきょろきょろ周囲をみわたす。その様子がちょっと微笑ましく…だが逃がさない。
その女子に向かってそっと高宮は近づく。足音を立てずに歩くことを身につけてしまったので、背後によるのはたやすかった。奇妙な生き物のえりくびをぎゅっと握る。
「掴まえた!手前だろっ俺にここ最近いろいろ吹っかけてきたやつは」
首根っこをしっかり握ると妙な達成感があった。服はしっかり握ったまま前を向かせると目を皿のように見開いた、それだけが表情豊かで、逆を言うとそれ以外が無表情な少女の顔があった。
「きさまだれ」
あまりに棒読みだったので一瞬高宮はそれが異次元の言葉に変換されたが次第にそれがひどく不躾な言葉なのだとわかる。
キサマダレ、きさまだれ。
貴様、誰。
「いきなり貴様呼ばわりかこの野郎!つか聞く前に名乗れこの変質者!」
「っふ、高宮神楽のくせに生意気な、私は才様だ」
名前を呼ばれて思わず鳥肌がたった。
「つか名乗ってねーのに俺の名前知ってるんじゃねー!気色悪いわ!!」
「気持ち悪い…いやか?」
じっと才が高宮を見た。無表情なのになんだか純粋で弱い生き物をいじめたような心地がする。
「い…いや……」
どもった高宮に才の目がキラリ…と光った気がした。
「何だ高宮神楽のせいに、矛盾しているぞ!駄目駄目だな!」
「いちいちフルネームで呼ぶな!しかも俺は駄目じゃねぇ!」
「じゃぁどっち!」
姓名のどちらをと聞いているのは分かったが高宮は何だかうんざりしてきた。
「どっちでもいいよちくしょう!」
「じゃぁ高宮ときどき神楽だな!」
大きなため息をつきながら高宮は大袈裟なほどに肩を落とした。なんだ、その”曇りときどき晴れ”といっているような、まるで天気のはなしをするような適当さ。
ああ、つかれた。とても疲れた。こんなやつに会うために待っていた俺アホじゃないの。いいや。この相手がアホなんだ、俺じゃない…。
「お前…何歳だ?」
「五歳」
才は即答した。高宮は反射的に突っ込む。
「嘘つけ!こんなでかい五歳児が居てたまるか!」
こいつアホだ。いやアホでは生ぬるい。あふぉだ。高校生の制服を着ていて、どう見ても中学を出ている身長の生き物にそれはない。ある意味五歳児かもしれないが。
「お前、あの時のあいつだろ。真夜中にここの屋上で飛びついてきて髪の毛ひぱったあげくにダッシュで逃げた奴」
才がぎくり、と体をかたくさせたのを高宮は感じ取った。よくよく見れば顔色も多少変わったように思う。
ほほう、何だこいつ結構表情が変わるやつなんだな。顔の筋肉は動かないが動きは表情豊かだ。
高宮がにやにやしているとその間をうめるように才が言った。
「何のことだ」
間が空いて、顔をそらした時点で、それはもういろいろと肯定していた。
「白々しい嘘だなぁ」
暴力は嫌いだが、かわいいと思う生き物をいじめるのは好きだ。不意に高宮は思った。こいつかわいい。それ以上に面白い。いじりたい。
「私は嘘はつかん!」
「お前さっき、物凄いわかりやすい嘘をついたばかりだろう」
才が押し黙ったような気がした。楽しすぎる。笑い出したい衝動を抑えて、高宮は改めてこの奇妙な生き物について知りたくなった。そういえばフルネームを知らない。才は知ってるくせに…何か生意気だな。
「お前―――名前は何だ?」
「普通人の名前を聞くときは自分から名乗ると聞いているが」
聞けばぽんと返ってきた。すっとばしたのはどこのどいつだと思う。しかもすでにフルネーム知ってるし。
「お前に普通が通じるのかよ」
そう高宮は思ったが。もしかしていまさらちゃんとした自己紹介したいのか?という考えが脳裏によぎった。逃げられないのもあるだろうが今日の才は必死で逃げようとするそぶりも見せない。高宮の言葉に反応して答えるところを見ると、意思疎通のする気がある…気がする。
未確認生物に等しい変な生き物なので断定はできない。
「失敬な。私は小鳥遊才だ」
答えは意外にも才のほうからもたらされた。しかも襟つかんでるのに踏ん反り返って言っている。息は苦しくないのだろうか。―――あ、顔をしかめた。
「ふうん。タカシナサイね。俺は高宮神楽だ。ヨロシクな」
人形のように固まった才の目からとうとつに水がこぼれた。それを涙だと理解するのに、高宮ですら数秒必要だった。嗚咽もなく、顔の筋肉が動かないままただ涙を流すその姿は人形の目から水が出てきたくらいにはかなり怖い光景だった。でも才が生きているのは知っているのでその怖さは半分以下だったと思う。だからといってそれを見続けるのも気まずくて、空を見上げると月が目に入った。っふ、今日はいい月夜だな。街の明かりで夜空はほんのすこし闇の色が淡くて、星の色もまだまだ弱くて。月だけが、そんな中を悠然と輝いている。が、その時間は長く続かなかった。敵前逃亡している奴が居る。いや、逃げてもいいのか、別に。
それに気がついたのは高宮が才を腕の中にしっかり確保した後だった。
「わあ!ったく、何がしたいんだ、お前は!」
再び高宮がたそがれていると、今度は才は彼に抱きついた。これが色気ある抱擁かといえば、どちらかというと親猿に小猿がくっついてぶら下がるような感じだった。しかもこの猿はいたく高宮の髪を気に入っているらしくそれに無造作に触れては奇声を上げている。
「才」
名前を呼ぶと、小猿はおとなしくなった。高宮は妙な気持ちが湧き上がって思わず苦笑を浮かべた。しょうがない、と照れくさいようなあきれ返ってしまうような。
それでももういいかと思えてしまう。ああ、ペットを飼う飼い主の気分はきっとこんなものなんだろう。高宮は才の頭を反射的になでながらそんなことを考えた。
その日は中々眠れなかった。
才が長い間かまってくれと意識がそれるたびにキーキーうるさくて、本当に、眠くなるまでずっと相手をしていた。
眠くなって、才の口を手で塞いぎながら眠った。
生まれて始めて、他人と騒ぎながら眠むるのが、こんな変人とは。奇妙な出会い方をしたものだ。

それから高宮は、奇妙な生き物につかまったために。より奇妙な生活を才といっしょにおくることになる。
それは、ながいながい奇想天外のはじまりで―――。

後に、才はあらゆる意味で天才過ぎた人間なのを知った。
幼少期に、外国の大学で博士号を取得して、そしてすでに卒業していること。その才能で富をもてあましていること。そんな彼女を守ろうとする家族がいること。
才は、その思いに答えられないほどながい夜の中―――。
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