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ヒースヒルダの優しい魔女

2008.09.04 *Thu
白いあたたかな陽光があちらにある。

『さあ、おいで。私の手をとるといい』

その手がまるで、世界のどこかの聖母のように。
あたたかで慈愛のある手だと信じられた。
胸は熱く、涙が溢れた。もう二度とこの奇跡になどで会えまい。
ありがとう。
ありがとう。
手をさしのべてくれて。




たぶんほのぼのを目指した話。
湿気要素があるのはお約束。



この世には、三種類の人がいる。

物をあやつる魔法使いと。
心をあやつる魔女。
その間に位置する人と。

そして、ある丘の上から一つの知らせが小波を生んだ。
丘の上の魔女が死んだ、と。

首都から離れ、道路がアスファルトから石畳に変わりそれを中央通とする小さな町を越えて今度は土で固められた道の森の中に入る。森の中に入ってしばらくしたところに、小さな道があった。人一人は悠に通れそうだが二人だと並んで通るのは厳しい。そんな幅だ。その道を抜けるものと信じる根気が必要なほど歩いた先にあるのは視界の中で両腕を開いたぐらいの足の短い草で覆われたなだらかな丘。その中心にある小さな木の家。
丘の上には、変わり者が住んでいる。
小さな家の主は、来訪者の訪れに思わず顔を顰めていた。外来用のノッカーが静かな家によく響き、来訪者の存在を主張している。うんざりする気持ちとほんのわずかな恐れが少々。あの長い道のりをわざわざ歩かせたのだ。無下に帰すのは良くない。そういい聞かされているためにじりじりとでもドアに近づく自分が悲しい。出来ればこのゆっくりと近寄る間に帰ってくれたらいい。そう思うのに、ノッカーの音はしつこくそれは出来ないことのようだと思わされるばかり。いやいやドアの柄を握る。あの鬱蒼とした森を歩かされたのだ、出てやらないのは相手が気の毒だろう。だが迎えるつもりが全くもない。
ドアを、ゆっくりと開く。
「こんにちは、どのようなご用件ですか。」
「すみません。こちらにヒースヒルダ、丘の上の魔女はいらっしゃいませんか?」
瞬間的に、惚けた。美醜にこだわらない自分が思わず見ほれるほどのきれいな青年がそこにいた。淡い金髪で、碧眼。背もすらりとしていて、向けられる穏やかな微笑や雰囲気も品があって美しい。顔はもちろん整っている。どういう風に表現すればいいかわからないが、とにかく整っている。なんと言うべきだろう。ああ、そうだ。まさに絵本から出てきた王子様のような美貌だとヒースヒルダは静かに一人合点した。
納得したところで意識が切り替わった。ヒースヒルダは冷静に、出切るだけ静かな口調で言葉をつげる。
「ヒースヒルダは私ですが、丘の上の魔女はいません。それでは」
そしてドアを静かに閉じた。
ああ、もう嫌になってしまう。
丘の上の魔女が鬼籍に入り三ヶ月。死した魔女を訪れる無法者のなんと多いことだろう。少なくとも、こうして追い出すのは五回は経験したはずだ。人が嫌いなのにどうしてマジマジと顔を合わす機会が出てしまうのだろうか。それもあんなにきれいで、いかにも王子様のような人までも魔女なんて胡散臭い職業に救いを求めるなんて世も末じゃないか。いっそ新聞に大々的な告知をするべきなのかと思いあぐねるがそのお金もないしもとより家から出るのが嫌だ。絶対そんなことはしたくない。
ヒース、ヒルダ。丘の上の魔女。
大胆不敵にして狡猾な魔女。けれども彼女は多くの者に愛されてもいた。
「どうしたの、キッチン」
「すみません」
「うわぁ!」

「ここの財産もろとも、私が後見人として預かる法的な手続きはずいぶん前に終わっていたのですが、なぜかここに来る日は今日にと指定されておりまして。今日はその報告と・・・私の呪いの答えを・・・その、聞こうかと」
話を聞いていて、ヒースヒルダはだんだん嫌な予感がしてきた。
「ずいぶん前って、どれくらい前ですか」
「三ヶ月ほど前です」
あの詐欺師!!
ヒースヒルダに思わず怒りの炎がもえたぎった。

いろいろ話したはずなのに、もう自分が何を言ってどのような会話をしたのか覚えていない。

「キッチーン!」
「あのくそ婆ぁ」
我ながら地を這うようないい声音が出た。
「よりにもよって、よりにもよって!!私が家督注いだ後に詐欺まがいなことしてたの!というかあれは詐欺なのどうなのよくわからないのだけれど。でも相手はとてもきれいで頭のよさそうな人だったの。怖いよぉ、私追い出されるのかなぁ。むしろ訴訟とかされて借金真っ盛りなのかしら?私はヒルディじゃないから詐欺まがいなことなんてとても出来ないし。でも、人のよさそうな相手をだましてると思うと良心痛むし。というか私がやったわけじゃないんだけれど」
そう私は何もしていない。だがお先は真っ暗だ!
家督、名前を継承しないかとヒルディに言われたとき、ヒースヒルダは素直に嬉しかった。同時に財産は継がせないとも言われたが別に嫌ではなかった。いや、少し残念ではあったと本心ではやっぱり思っている。人嫌いでまた商才なんて欠片もないヒースヒルダはヒルディ亡き後一人で生きていく自信が欠片もなかった。なので、一人で生きていけるぐらいの十分な資産でも残してくれたらいいなぁと淡い期待は抱いていたのだ。だがそんな甘えた気持ちはヒルディには通じないどころかたいした悪戯をやってくれたものだ。
家族でもお金が絡むと険悪な仲になることはよくあることだし、お金の問題でヒルディと険悪な仲にはなりたくなかった。ただ、名前を継げるということがすでに嬉しかったから、ヒースヒルダはお金のことに関してもきれいさっぱり忘れててよろこんでいた。名前を継ぐ、彼女のたった一人の後継者。彼女に認められた家族になれる…。


「キッチン生意気、今日こそ猫鍋にして食べてやるんだから」
思わず憎く思ってそう言ったのに、猫はあからさまなあくびをしただけだった。

お腹の上に、腹ばいになったキッチンの背をなでながら。ヒースははぁとため息をつく。
「変化がいっぱいあって疲れちゃった」

長い長い子供時代にぽっかり置いていかれてしまった。置いていかれる寂しさと、追いつけない悲しさ。いろんなことからすくってくれた閉ざされた静かなお家、そこがない。

『時はいつかお前にも来るだろう』
魔女の声を思い出して、ヒースは疲れた胸が思いだけじゃなくてきゅっと痛くなる気がした。
「ときはいつかくる、かぁ」

誰かに心を傾けるなんて、しない。
だって迷惑になったらいけないから。
こんな自分を誰も愛せないだろうから。
だから、精一杯の贈り物だけを贈る。幸せになれますよう、喜びますよう。
心を傾けたら重くなってしまうから。
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