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妖精童話

2009.01.10 *Sat

とても辺境にある、村での出来事にございます。
くるぶしにも満たぬ短い草の草原がどこまでも続き、地平を分かつ淡い青空は淡く白い雲を伸ばす。
ところどころにある樹が人の心を休ませ、草原の上では家畜が揺るりを一日を過ごす。そのような光景が日常にある・・・そう、そこはとても穏やかな村でありました。
けれどもそのような村であっても、人は運命には逆らえません。
人が死をわかち、悲しみにくれる日々が存在してしまうことは誰にも避けられないのです。

むかし、むかし、あるところに娘が下りました。
父をなくし、母をなくし、娘はとても気に病んでおりました。

そこに囁かれたのは慈悲深き神かそれとも忌まわしき悪魔の言葉だっただろうか。
その声は囁きます。

お前のその手が欲するならば、腕に抱える命をくれてやろう。
お前の声にこたえ、育つ命をくれてやろう。

その代償はうら若き乙女の若き日々、命の時間。
娘は差し出しました。彼女は両手を天に差し伸べ涙を流しながら笑んでいました。
すると、何処からともなく、大きな水の雫が娘の前でぽとんと落ちました。その雫は人の赤子の頭ほども在る大きなしずくでした。そしてその雫が落ちた場所から大地が割れ、水にぬれた土がもこもこと浮かび上がり泥が人の形をかたどりました。
そして彼女が手にした土くれの人形は、人の赤子となり、産声を上げたのです。


祖母がいなくなってしまった。
僕はなんとなくそのことを知ってしまった気がした。目の前に横たわる祖母は動かず、体は体温がなくて、固まっていく。肉の色がわずかながらも変色していくさまは見ていて気持ちのよいものではなかったけれど。これが死なのだろうと僕は知っていた。あたたかな笑みを浮かべる祖母が足をがくがくさせてうまく歩けなり、とうとう床に上がれなくなったとき、見えない何かが祖母のうちから出て行って消えていくのだろうと確信してしまったのだった。それはずいぶん前の夜にも思えるし、昨日のようにも思える。
僕は困ってしまった。祖母はいない。祖母は死んでしまってもう動かない。でも何をすればいいのだろう?
うまく動けなくなっていく祖母が少しでも楽になるように、今まで生活を支えてきた。畑を耕しり、祖母の代わりに村へ買い物にいったり。ご飯を作ったり。死んだ祖母には食事は要らないのだろう。僕は食事をしなければいけないけれど、……ええと?
小首をかしげていると、背後に気配があった。振り返ると、夜色の長い髪と黒い丈の長い服をまとった男がいた。目は、焼け付くように赤い男の人。僕はこのひとを知っている。
影の中で暗い闇の中にいるとき、あるいは月のない夜、僕は何度もその男と見えてきた。祖母は男のことが見えていなかったようだが、僕は何度も、ただ目が会うだけの出会いを繰り返してきていた。その男が今、ドアの前に訪問者として現れた。
「それはお前の母だ。」
男が唐突に言った。今まで聞いたことのない、きれいな響きのある声だった。
僕のお母さん?
僕はおいた母を見た。そこには老いた顔がある。僕が物心ついたときから、母は老婆だった。
母が、死んだ。
名実、ずっと祖母だと思っていた人だった。僕も流石に人の子供が生まれる原理は知っている。けれども母に夫はいなかった。いいや、いたのかもしれないけれど、母はずっと村から身を隠すように暮らしていた。僕が生まれてから、母は一度も村に下りようとはしなかった。そして僕は老いた見た目の母を一度もお母さんと呼んだことはなかった。
どうして?
そう問うと、男が答えた。
まず男は人間ではない。男はある日、娘を見かけた。娘は父をなくし、母をなくし。悲観のあまりに涙を流す日々を送っていたのだという。娘は男から見れば華だった。特別美しいことはないが、悲観にくれている姿でもなお、生きる力に溢れた美しい娘だった。そこに目を引かれた男は気まぐれに、その華をよこせばお前に命をくれてやろうと囁いた。娘はそれを笑顔で承諾し、僕は土くれに生まれたばかりの風の妖精を閉じ込めて、生まれたのだという。
僕が、生まれたとたんに、母は老いたのだという。
母は僕を手に入れたが、その子供が異様な手段で生まれたことはちゃんと理解していた。そして自分の体に起きた異常も。母は自分のことは省みなかったが僕が悪魔の子と罵られるのを厭った。そのために母はこの、村はずれの森へとひっそり隠れ住んだのだと。

知らない、何も知らなかった。

ただただ言葉もなく男を見ると、男はいった。
「お前にはまだ、あの女が宿した半生が残っている。ここにとどまるもよし、ここを出て行くのもまたよいだろう」
半生?
「私はあの女から奪った命の時間をそのままお前に与えて作ったのだ。あの女が本来生きるはずだった時間の半分をお前は有していることになる。それがお前の寿命だ。」
どうしてそんなことを?
「気まぐれだ。これからも私はお前を気が向いたら見ている」
そして光がさして消えていく影のように、すっと消えていった。
ここを出る。
今まで思いつきもしなかった。
僕は母を見る。母はやっぱり何も答えない。僕はそのまま家の中を整理して、持ち歩けそうなもの、今後役に立ちそうなものを簡単なリュックに入れて家に油をまいた。油をまき終わると、家を出てマッチをする。今は冬で乾燥しているため、家は母といっしょにきれいに燃え上がった。村には土葬の習慣があるが、その中に母を埋めてもらうことが出来ないのはなんとなく知っていた。母と男の言う通りに、母に起こったことを知るものが、母を魔女と恐れていたからだ。そして僕は母を埋めたくなかった。それは僕が土から生まれた性なのかもしれなかった。
炎を見上げながら、僕はぼんやりと思う。
母は、何故僕を作ったのだろう。
それはやっぱりわからない。僕は燃え上がる炎に背を向けた歩き出した。僕は、僕を知るために旅に出よう。母さんがくれた命の意味を知るために。

どこかにいる妖魔の人、僕のお父さん。あなたは何を思って僕の命をくれましたか。
人としては短い一生を、母さんがくれた命の時間を。

現世の中をさまよう。
――― 妖精はかたちなきひとの幻想の間を。
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