This Archive : 2008年01月

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146 「いっそ殺してくれ」

2008.01.08 *Tue
 世界をすべるものを、人は神と呼んだ。

 昔、神は不可視であり不可侵だった。否、そもそも存在したか否かさえクロノ・トリスは知らない。宇宙はそもそもの根源を生み出したものとしていたのかもしれないし、いなかったのかもしれない。霊的力や目を持って生まれたわけではないクロノ・トリスにとって幽霊がいるのかいないのか、はっきりいえないことと同様な存在だった。
 神を知らなくても生きていけた世界。神がいなくても生きていけた世界。神の支えなくても生きていけた世界。
 不可侵であったはずの神の領域を、叡智を得て人々は人為的に生み出した。世界の定義はひっくり返され世界に神が生じた。
 そしてクロノ・トリスは。時の神と称された神の一人である。
 
 ずいぶん長い間生きてしまった。
 不老不死とは。かくも辛いものだったか。

同じくして生まれた神の同朋――― ルイ・・・・ソレイユが言っていたことは正しいことだったか、死にたいなぁ。時の神と称されるクロノ・トリスがぼんやりと浮かべた回想の末そう思うと、それがそのまま声に出てしまい、従者にこっぴどくしかられた。
「あなたが死ぬことなど許しません。あなたが消えたら世界を滅ぼします。」
「いあ、それはえっと。」
クロノ・トリスの従者はなかなか過激な性格をしている、と思う。思わずぎくりとしてしまうくらいには。
「それとも一緒に死んでいただけますか。いえ、あなたをこの手で汚すなどはやり恐れ多い。まずは私を壊して殺してください。」
まるで熱烈な詩を読んで愛の告白をするように、従者ことセフィリウスは熱っぽく語った。その瞳と言葉にクロノ・トリスは戦慄した。普段はあらゆるものに無関心で、邪魔だと感じない限りは安心なのだが殲滅の悪魔とたとえられる彼は自分が無意識で出している恐ろしいまでの、そう、一歩間違ったら殺気、死を予感してしまうまでの威光を放っていることを知らない。
無意識の殺意に冷や汗を流しながら、クロノ・トリスはそうだ、いっそ寝てしまおうと思いつく。どこかの御伽噺でも、常軌を逸した人物は眠るが常なのだ。吸血鬼も、お姫様も。自分が寝ても別におかしくないだろう。たった一人の命で世界を天秤にはかけれない。
「うう・・・。じゃぁ、寝るか」
「いけません」
 そう告げてみたが、意外なことに反論が上がった。クロノ・トリスはきょとん、とする。その視線にあるのは至極まじめで恐ろしい光りを話す赤い瞳。
「このような場所であなたの美しさを損なわせるわけにはまいりません」
ま、まいりませんって・・・。クロノ・トリスはなんと言えば良いかわからない気持ちになった。何せ目前のセフィリウスのほうがずっと美しいのだ。
 端整という言葉で片付けるよりも美貌の一言に尽きる顔立ち。卵形の輪郭におさまる目は切れ長で涼やかであり鼻梁は絶妙な高さである。薄い唇は美女でも逃げそうな珊瑚の色合いで潤い、絹のような銀糸はまっすぐに零れ落ちるようにセフィリウスの肩にかかって後ろでは背にもかかるほど。長身で細身である肢体も、しっかりと筋肉がついており絶妙に整っている。そして本人が放つ殺気のような恐ろしげな存在感もまさに美の領域といっても過言ではないほど存在感がある。赤い瞳は血の色にも似てどこか恐れを抱いてしまうものであるが、その瞳はひどく妖艶でひきつけられる強烈な存在感を放っている。
対するクロノ・トリスの容姿はというと、決して不細工とは言わないが、その他大勢に分類できる特別注目を浴びるでもない平凡な容姿である。
しかしながら目前の強烈な存在がさらりという。
「そうです、まずは花を敷き詰めましょう」
それではまるで花葬・・・。声なき声で突っ込みながらも呆然とするクロノ・トリスに対し、セフィリウスの最低限の準備がドンドン大袈裟になって行く。
「神殿も建てないといけませんね、そうなると台所や手洗い場なども必要でしょうか、」
「いや、寝るのに台所は必要ないよ・・・」
 手洗いという言葉を口にするのをためらったクロノ・トリスはひとまず台所のみを口にして突っ込みを入れた。それ以前に眠る場所をどこかの家と勘違いしてはいないだろうか。クロノ・トリスとしては出来れば一つの人類が誕生して滅亡するぐらいには自らを封印し寝ていたいのだが。
「台所があるのなら庭もほしいところですね、何を植えましょうか、いい薫のする花がいいでしょうか。役に立つ薬草がよいでしょうか・・・」
「だから・・・・寝るのに庭も必要ないよ・・・。」
 途中で起きたら意味がないと思う。激しく思う。むしろ、庭を作っても整備しなきゃ意味がないのではなかろうか・・・ 。だがそんなことを言えば、どこからか精霊を捕まえてきて管理させればいいとか言いそうな気がする。否、実行するのが想像できて否定要素がないのが悲しいところである。従者といいながら、彼の押しにクロノが勝てたためしは少ない。出来れば力を使い、脅して行うような荒業をしてほしくない。ひっそり隠居したいのだ。だがなぜか突っ込めない。セフィリウス、彼は今、暴走絶好調だ。
「そ・・・それに、そんな大層なものを作ればそれなりに大きな大地を必要としてしまう。」
「そうですね、手っ取り早くここの大地を切りはなしましょうか」
 クロノは絶句した。大地を切り離すなどといったい、そのようなこと出切るはずもないと常識を説きたい気持ちがわくが、残念なことにこの従者にはそれができてしまうという頭痛ものの事実があった。
 ひ、久しぶりだ。とクロノは戦々恐々としてしまいながら、意識を遠くに追いやった。セフィリウスとのこのようなやり取りもずいぶん久しぶりだった。これはこれで、飽きないような気がするが、先ほどとはまた違う憂鬱と疲れはなんだろうか。
 そうしてクロノが少し意識を飛ばしている間に、セフィリウスはさらに詳細な神殿の考案を切々と語った。
「こ・・・細かいな」



そして予定外にも永眠への道は、約十の年月を必要としてしまったのだった・・・。


>ある神様の話。
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